設備・工事の基礎知識

PAS交換工事の時期と費用の目安|高圧気中開閉器

PAS交換工事 交換時期と費用
目次

PASとは何か:責任分界点で「事故の切り離し」を担う機器

PAS(Pole Air Switch/高圧気中開閉器・高圧気中負荷開閉器)は、電柱の上や敷地の入口付近に設置されている、高圧受電設備の「玄関口」にあたる開閉器です。架空引込方式でよく使われ、地中引込の場合は同じ役割をUGS(地中線用開閉器)が担います。

PASが置かれているのは責任分界点——電力会社の設備と、自社(需要家)の設備の責任の境目です。ここから内側の設備は、原則としてすべて所有者の管理責任になります。PASはその境界に立ち、構内で起きた事故を構内で食い止め、電力会社の配電線側へ波及させないことを役割としています。

SOG制御装置が「賢く切り離す」仕組み

PAS単体はただの開閉器で、判断機能を持ちません。事故を検知して開閉を指示するのが、PASとセットで取り付けられるSOG制御装置です。SOGはそれぞれの動作の頭文字を表します。

  • SO動作(過電流ロック):構内で短絡(ショート)が起きて大電流が流れると、PASは自ら開かずに「ロック」します。電力会社側の遮断器が動作して電気が止まった瞬間、無電圧を確認してから開放する仕組みです。電流が流れている状態で無理に開くと開閉器自体が損傷するため、順番を守るための機能です。
  • G動作(地絡):構内で地絡(漏電)が起きた場合は、電力会社側の保護装置よりも先にPASを開放し、配電線を停電させずに自社設備だけを切り離します。

つまりPASは「事故が起きたときだけ確実に動く」ことが仕事の機器です。ふだんは何もしないため劣化に気づきにくく、いざというときに動かない状態が最も危険といえます。

交換時期の目安:屋外用は「使用開始後10年」が基準

日本電機工業会(JEMA)の「汎用高圧機器の更新推奨時期に関する調査」報告書では、高圧交流負荷開閉器の更新推奨時期を次のように示しています。

機器 更新推奨時期(JEMA)
高圧交流負荷開閉器(屋外用=PAS等) 使用開始後 10年(または定格負荷電流開閉回数200回)
高圧交流負荷開閉器(屋内用) 使用開始後 15年
GR付開閉器の制御装置(SOG制御装置) 使用開始後 10年
避雷器(LA) 15年

屋外用が屋内用より短いのは、雨・風・紫外線・温度変化・塩害にさらされ続けるためです。PASは文字どおり屋外に置きっぱなしの機器なので、劣化の進み方が屋内機器とは異なります。また、SOG制御装置は電子部品を多く使うため、周囲温度や湿度の影響を受けやすいとされています。

ここで押さえておきたいのは、この年数が「壊れる年数」ではないという点です。JEMAは更新推奨時期を「製造者の保証値ではなく、通常の環境の下で通常の保守・点検を行って使用した場合に、機器構成材の老朽化などにより、新品と交換した方が経済性を含めて一般的に有利と考えられる時期」と定義しています。寿命の宣告ではなく、経済的な判断の分かれ目という位置づけです。

実務では、電気保安協会などが示す更新目安として15年前後を掲げる例もあり、現場感覚としては10〜15年が検討ゾーン、点検結果によってその前後に振れる、と捉えるのが実情に近いでしょう。

PASはどんな状態になったら交換すべきか

年数と合わせて、点検結果や外観から判断します。以下は交換検討のきっかけになりやすい項目です。ひとつ当てはまれば即交換というものではなく、複数が重なるほど優先度が上がります。

確認項目 見るポイント 該当したときの目安
設置からの経過年数 銘板の製造年・竣工図で確認 10年超で検討、15年超は優先度高
絶縁抵抗値の低下 年次点検の測定値が前回・前々回より下がっていないか 傾向として低下していれば要注意
外箱の錆・腐食 底板・取付金具の錆、塗装の膨れ、変形 底板の錆は浸水の前触れ、優先度高
ブッシングの状態 汚れ、変色、ひび割れ、焦げ跡 変色・焦げ跡があれば要調査
SOG制御装置の動作 動作試験の結果、表示部の不点灯、制御ケーブルの劣化 不良なら制御装置単体でも早期対応
避雷器の内蔵有無 図面・銘板でLA内蔵型かどうか確認 非内蔵で雷の多い地域なら内蔵型への更新を検討
開閉操作の重さ 手動操作時の引っかかり、操作ロープの傷み 可動部の錆が疑われる

とくに実務で重く見られるのが底板の錆です。関東東北産業保安監督部が公開している事例では、設置後27年が経過したPASの底板に錆で穴が開き、そこから内部へ水が浸入して絶縁不良を起こし、波及事故に至ったケースが報告されています。同資料には、設置後20年のPASが点検終了後に投入できなくなり、復旧に5時間を要した事例(原因は内部への水分浸入と可動部の錆)も記載されています。

絶縁抵抗については、高圧回路に低圧のような一律の法定基準値があるわけではありません。単発の数値よりも、過去の測定値と比べた低下傾向で判断するのが基本です。だからこそ、点検記録を継続的に残しておくことが交換判断の材料になります。

放置した場合に起きること:波及事故という現実

PASの劣化を放置したときの最大のリスクが波及事故です。これは「もらい事故」ではありません。自社設備で起きた事故を構内で止めきれず、電力会社の配電線を停電させ、同じ配電線につながる周辺一帯を巻き込んでしまう事故を指します。

関東電気保安協会の資料によれば、高圧配電線1回線には平均で約1,500軒のお客さまが接続されています。自社の開閉器ひとつが機能しなかった結果、近隣の工場・店舗・住宅を含む広い範囲が停電する——それが波及事故の実像です。製造ラインの停止、店舗の休業、データの損失など、停電を受けた側に生じた損害について賠償を求められる可能性があり、地域における信用にも影響します。

数字の面でも、関東東北産業保安監督部の資料では、管内の波及事故が過去10年間で年平均133件、うち約6割がPAS未設置の事業場で発生していたこと、そしてPAS設置後10年を超えると事故の発生が増加する傾向にあることが示されています。「設置してあるから安心」ではなく、「設置してあるものが動く状態か」が問われるということです。

過度に不安をあおるつもりはありません。ただ、PASは事故のときにだけ働く機器である以上、壊れてから気づく設計になっていない——この一点は、設備をお持ちの方に知っておいていただきたい事実です。

交換工事はどう進むか:停電調整と作業時間

PAS交換は、必ず停電を伴う工事です。段取りは概ね次の流れになります。

  1. 現地調査:既設PASの型式・年数、電柱の状況、高所作業車が入れるかを確認します。単線結線図や直近の点検報告書があると精度が上がります。
  2. 機器選定・見積もり:容量、避雷器内蔵の有無、方向性SOGの要否などを決めます。
  3. 停電日程の調整:電力会社への申請と、構内の停電周知を行います。ここが最も日数を要する工程です。
  4. 工事当日:停電措置 → 既設撤去 → 新設据付 → 各種試験 → 復電。
  5. 完了確認:試験成績・写真の提出、点検記録への反映。

停電時間は、PAS単体の交換であればおおむね3時間程度から半日が一つの目安です(高圧ケーブルを同時更新する場合はさらに長くなります)。実際には作業前後の安全確認や試験を含めて余裕を見るため、当日は半日規模の停電計画を立てるのが一般的です。

「営業日に止められない」という施設も多いため、休日・夜間の施工も選択肢になります。ただし電力会社との調整枠が限られるぶんリードタイムが長くなり、割増費用が発生することもあります。土日祝や年末年始を希望される場合は、数か月前からの相談をおすすめします。

PAS交換の費用はいくらかかるのか?内訳と目安

PAS交換の費用は、複数の電気工事会社が公開している目安を見ると、PAS単体の交換で60万円前後からというレンジが多く示されています。高圧ケーブルの同時更新まで含めると、100万円台から500万円程度まで幅が広がります。

費目 内容 費用感
PAS本体 容量、避雷器内蔵の有無、方向性SOGの有無で変動 数十万円
SOG制御装置 本体とセットで更新するのが一般的 数千円〜数万円台
施工費・重機費 高所作業車、有資格者の人工、既設撤去 現場条件により変動
試験・手続費 停電計画立案、電力会社との調整、絶縁耐力試験等 数万円〜
撤去・処分費 産業廃棄物処理 数万円〜
割増(任意) 休日・夜間施工、交通誘導員 条件により加算

上記はあくまで公開情報からの目安であり、設置環境・仕様・現場条件により変動します。とくに、電柱の位置と道路条件(高所作業車が寄り付けるか、道路使用許可が要るか)、既設ケーブルの状態、同時に更新する機器の有無で総額は大きく動きます。

見積もりを比較する際は、金額の大小だけでなく「停電調整の手配は含まれているか」「試験と記録の提出まで含むか」「撤去処分費が別計上になっていないか」を確認してください。安く見える見積もりほど、後から追加が乗る項目が抜けていることがあります。

まとめ

PASは、責任分界点で自社の事故を構内に閉じ込めるための機器です。JEMAは屋外用の高圧交流負荷開閉器について使用開始後10年を更新推奨時期として示しており、実務では点検結果と合わせて10〜15年が検討ゾーンになります。判断材料は年数だけではなく、絶縁抵抗値の低下傾向、外箱・底板の錆、SOG制御装置の動作結果までを含めた総合評価です。

費用はPAS単体でおおむね60万円前後からが目安ですが、現場条件で変動します。工事には停電が伴い、電力会社との調整に時間がかかるため、点検で指摘を受けた段階で早めに動くほど、日程も費用も選択肢が広がります。

私たち株式会社でんきのかんり(本社・横浜市青葉区)は、高圧・キュービクルに特化し、関東全域で保安点検と電気工事をワンストップでお受けしています。「点検でPASの交換を指摘されたが、いつ・いくらで進めるべきか判断がつかない」という段階でも構いません。図面や点検報告書をお手元にご相談ください(080-5528-4646・平日10:00-19:00)。

よくある質問

Q. PASは何年で交換すべきですか?

A. JEMAは屋外用の高圧交流負荷開閉器の更新推奨時期を使用開始後10年(または定格負荷電流開閉回数200回)としています。これは壊れる年数ではなく経済性の分かれ目で、実務では点検結果と合わせて10〜15年が検討ゾーンになります。

Q. PAS交換の費用はいくらくらいかかりますか?

A. 公開されている目安ではPAS単体の交換で60万円前後からというレンジが多く、高圧ケーブルの同時更新まで含めると100万円台から500万円程度まで広がります。電柱の位置や道路条件、既設ケーブルの状態で変動します。

Q. PAS交換の工事では停電はどのくらい必要ですか?

A. PAS単体の交換であれば、おおむね3時間程度から半日が目安です。安全確認や試験を含めて当日は半日規模の停電計画を立てるのが一般的で、高圧ケーブルを同時更新する場合はさらに長くなります。

Q. PASを交換せずに放置するとどうなりますか?

A. 構内の事故を止めきれず、電力会社の配電線を停電させる波及事故につながります。高圧配電線1回線には平均で約1,500軒が接続されており、周辺を巻き込んだ場合は損害の賠償を求められる可能性があります。

参考にした資料

官公庁・業界団体

メーカー・民間事業者の公開情報

SOG制御装置の更新推奨時期(10年)は機器メーカーの公開資料、交換費用の目安は民間の電気工事会社が公開している情報を複数突き合わせた参考値です(いずれも一次情報ではありません)。

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この記事を書いたのは

株式会社でんきのかんり 編集部

電気主任技術者・第一種/第二種電気工事士が在籍

神奈川県横浜市青葉区田奈町8-5 A202|TEL 080-5528-4646(平日10:00-19:00)。高圧・キュービクル(高圧受電設備)の保安点検と電気工事に特化し、関東全域に対応しています。30〜40代を中心としたチームが、点検から工事までワンストップで対応します。記事は法令・公的資料を確認しながら作成していますが、制度は改正されることがあるため、実際のご判断の際は最新の情報をご確認ください。

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